RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)
RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)
スピードが魅⼒のロボカップサッカー⼩型リーグ
パス回しや連携戦術もみどころ
中川⽒はロボットのハードウェア/ソフトウェア開発や販売を⾏う株式会社アールティの代表取締役です。起業前は科学技術振興機構ERATO 北野共⽣システムプロジェクトの研究員や、⽇本科学未来館でASIMO の展⽰企画などを担当してきた実績があります。ロボカップも第1 回の世界⼤会で知ったのをきっかけに、以降ロボカップ世界⼤会にも複数回出場・⼤会役員を経験し、現在は⼩型リーグを中⼼にアドバイザーをつとめています。
中川⽒が開発した⾝⻑120 ㎝の2 ⾜歩⾏ロボットRIC90 のマスコットロボット「ネコ店⻑」とともに
ロボカップの実機リーグとは
ロボカップの歴史はサッカー競技から始まっています。実際のロボットで競技を⾏う通称「実機リーグ」と、コンピュータ上の仮想ピッチ(フィールド)で⾏う「シミュレーションリーグ」ではじまりました。今ではサッカーだけでなく、災害現場でのロボットの活躍を想定した「レスキュー」や家庭で⽣活⽀援を⾏う「@Home」、⽣産⼯場を想定した「インダストリアル」、19 歳以下が出場する「ジュニア」等の多くの競技に広がっています。
1997 年に第1 回ロボカップ世界⼤会が名古屋で始まったとき、実機リーグは⼩型リーグ、中型リーグだけでした。当時は⼩型の⾃律型ロボットで動き回る競技はマイクロマウスくらいしかなかったため、中川⽒は⼩型リーグを⽬のあたりにして、画像処理技術と組み合わせたところが⾯⽩いと感じ「参加したい!」と思ったと⾔います。そして、実際に第2 回から出場しています。
⼩型リーグに重要な3 つの技術とは
- 中川さんはロボカップサッカーの⼩型リーグのアドバイザーをされていますが、まずは⼩型リ ーグ全般についてお聞かせください
⼩型リーグはその名のとおり、ロボカップの中では⽐較的⼩さなロボットを使って⾏うサッカー競 技です。はじめた当初はピッチの⼤きさが卓球台サイズで、ロボットは5 対5、ボールはオレンジ ⾊のゴルフボールを使っていました。現在ではピッチ幅も広くなり、卓球台どころかドッジボール のコートくらいの⼤きさになりました。1 チームのロボットの台数も6 対6 に増え、⼤きなフィー ドをロボットたちが縦横無尽に駆け巡っています。ルールも⼤きな変更を繰り返してきました。こ の20 年で⼤きく変わったのは中央のコンピュータで画像処理をして各ロボットに分解する形式に なったり、ロボットに試合開始等を伝えるレフェリーボックスが⾃動化されたり、ゴールエリアに は⼀台ずつしか⼊ってはいけないなど、ルールが細かく厳格化されてきました。
- ロボットは⼈が操縦しているのではなくて、すべて⾃分で考えて⾏動しているんですよね。
はい。ロボットはすべて⾃律型で、試合が始まると⼈間は⼀切操作することはできません。⼩型リ ーグはいわゆる円筒形、直径18cm ⾼さ15cm 以下のロボットです。また、「グローバルカメラ」 と呼ばれるピッチの真上にカメラが設置されていることが特徴で、このカメラをつかって実時間で 画像処理をしてチームのロボットの位置、ボールの位置などをリアルタイムに検出しています。他 のリーグはロボット本体にカメラなどのビジョンシステムを搭載しています。
- ⾃律的にサッカーを⾏うだけでもすごいのに、細かなルールも取り⼊れ、技術的にはかなり⾼ 度ですね。
⼩型リーグでは⼤別すると3 つの技術が重要になります。ひとつはハードウェアとしてのロボット本体を開発する⾼度な技術、2 つめはチームとして複数のロボットを同時に動かすための分散処理技術です。3 つめは画像認識など、実世界をどのように計測し、予測するかの技術です。3つのうち画像処理については、最近は運営するリーグ側で準備したシステムをつかっているので昔ほど重要視はされていません。
■参考動画
ロボカップサッカー⼩型リーグ
- 6 台のロボットが戦術を持って⾃律的に動作しているのですね
⽬に⾒えにくい部分では更に無線の技術も必要です。⼩型リーグではタイヤで移動する本体が多いのですが、タイヤはゴムでできているので絶縁されているため、アースがとれなくて無線通信がうまくできないケースがあります。また、会場ではたくさんの電波が⾶び交い、ノイズが発⽣したり乱反射したりとにかく受信障害が起きます。特に⼈間の⾝体はほとんど⽔分でできているので、観客が多いと電波は想定以上に乱反射します。研究室では動くけど試合になると動かないというのはそんなことが原因であることも少なくないです。そんな環境の中でも通信を確実に確⽴する技術も実は重要です。
- 電波の乱反射も考慮して開発する必要があるんですね。観客としていえば、⼩型リーグはなんといってもスピードが速いので⾒ていて⾯⽩いですね。
そうですね。他の競技と⽐較するとスピード感は圧倒的です。ただ、魅⼒はそれだけではなくて、⼈間のサッカーと同様にフォーメーションだったり、周囲の動きとコースを読んで出すパスの連携であったり、相⼿をよけるためのチップキックだったり、と戦術⾯でも⼗分楽しむことができます。昔はよく⼈間がラジコンで動かしたロボットと対決なんていうイベントもやったことがありますが、今はもう⼈間の操縦ではロボカップに出場するチームに勝つことは困難なレベルまで、ロボットの判断も⾏動も早くなりました。
- 各ロボットは滅茶苦茶に動き回っているわけではなく、統制されているということですね?
もちろんです。ボールがサイドラインを割ったらロボットたちは再びボールがセットされるまで待っていて、どちらのチームのボールか審判がジャッジした情報を受信して、再び戦術を繰り広げる動きに⼊ります。それらもすべて⾃律的に動作しています。審判がボールを動かすとそれに追随してロボットがざざーっと⼀⻫に動くので⾒ていて楽しいですよ。
- 複数のロボットがあの速度で連携して動作していると聞いただけでびっくりします。⼩型リーグにはとてもハイレベルな技術が必要だと感じますが、⽇本チームの状況はどうでしょうか?
たしかにハイレベルです。相⼿がパスしたボールをインターセプトして、実時間で狙った味⽅ロボットにパスを出すところだけ⾒ても、複数のロボットを分散して動かして戦術的に攻撃を展開していくのですから技術⼒はかなり⾼いですよね。その中で⽇本チームは健闘しています。⼩型リーグの昨年の状況を⾒ると世界⼤会に進んだ24 チーム中、4 チームが⽇本のチームです。約16%の割合で⽇本チームが世界⼤会に出場していることになります。ほかのリーグを⾒るとだいたい24 チーム中、1-2 チームが出場する程度の割合なので、⽇本の⼩型リーグのレベルは⾼いと⾔えます。⽇本のレベルが⾼いのでジャパンオープンなども⽇本の⼤会にも関わらず、⼩型リーグには海外の強豪チームが参加することもあります。
- 初期の頃と⽐べて、特にどのあたりの技術レベルが向上したと感じますか?
⾞輪を使った全⽅向移動が可能になり、CPU やカメラの処理速度が速くなったことで、スピードが格段に上がりました。計算スピードなどもかなり上がっているので、私が試合に出場していたころの画像処理とは⽐べ物になりません。具体的にはピッチ上にいる1 チーム6 台、計12 台のロボットの位置と、ゴールやボールの位置関係を、天井からロボットビジョンを使ったシステムで⾼速で正確に判断しながらチームとして動いています。その意味ではフォーメーションや動作の機械学習の技術も向上したと感じています。
⾒ていて楽しい競技になってきたということは、技術レベルがかなり上がったことを意味しています。基本的にロボットは⼈⼯知能で動作していますので、私はよく「すごいと思わせない技術が実はものすごい」と話すのです。⾒ていて「あぁ、凄い」と思わせるプレイは、その裏で⽀えている⾼い技術があってこそ、実現が可能になります。
- 複中型リーグや、ソフトバンクロボティクスの「NAO」(ナオ)による標準プラットフォームリーグはどう感じていますか? 中川さんの会社はNAO の世界で⼀番最初の第⼀号代理店でもありますけれど。
NAO は少し観戦の視点を変えた⽅が楽しいですね。脚式のロボットは⾞輪型に⽐べてどうしてもスピード感が格段に落ちます。ヒト型のロボットNAO のハードウェア機能を考慮すれば、現状は精いっぱい、かなり頑張って開発されていると思います。世界⼤会ではトコトコとボールに向かっていき、横パスを出すなど、それなりの頑張りに声援が上がります。転んで⽴ち上がるときは、本当に応援したい気持ちになりますよ(笑)。
他にも中型リーグは⼩型リーグと⽐較してスピードは落ちますが、ボディが⼤きい分、迫⼒があってダイナミックです。ぶつかり合ってボールを取り合ったりすると歓声が上がったりしますね。ヒューマノイドリーグもNAO のリーグと似て、ちょこまかと動き回る試合になるので、同じように声援を送ってあげてください。@Home では、家の中でのちょっとしたタスク(仕事)をこなすことが課題なのですが、それが意外と難しいというのがわかります。「○○をとってきて」という命令に、そもそも「○○」ってなんだよ?ってなりますよね。⼈間っていかにすごい情報処理をしているかというのがロボットを通して⾒えてくるのではないでしょうか。
アマゾンロボティクスの技術は⼩型リーグの連携を応⽤したもの
- ⼩型リーグに関して何か思い出や、特別なエピソードはありますか?
97〜98 年の頃だったと思いますが、ロール型のキッカー(キックする装置)の良いアイディアを思いついたので、それを当時の私達のハードウェア担当に相談したんですが、残念ながら作ってくれなかったんです。そこで当時、⽶コーネル⼤学のチームリーダーだったラファエロ.d.アンドレア教授に話したところ早速次の⼤会でそれを作ってきていました。ボールのハンドリング(いわゆるドリブルやパス等)の精度が上がり、彼らはみごと優勝することができました。
- ハードウェア担当が作ってくれていたら中川さんのチームが優勝していたかもしれませんね
いえいえ、それでいいんです。ロボカップのいいところはオープンソース、オープンマインドが浸透しているところです。いい技術ができたら次は皆がそれを使って研鑽していきます。アイデアだけ出して実装してないのに、⾃分がって⾔うほうがおかしくて、「⾃分のアイデアを⽣かしてここまでやってみせてくれてありがとう!」という気持ちでしたね。とはいえ、⼀⽅ではハードが作れなくて悔しい思いもしているので、起業してからはハードもやれるようになっています。
- そのマインドが社会の発展にも役⽴つのですね?
ラファエロ・d・アンドレア教授は後にキバ・システムズ(現アマゾンロボティクス)と協⼒して、複数のロボットと棚の位置を常時に把握し、棚ごと持ち上げて確実に運ぶ、物流倉庫ロボットを開発しました。ロボカップの⼩型サッカーリーグで複数のロボットたちがパスなど連携して動作する技術が、倉庫内でぶつからずに組織的に⾛⾏するシステムに応⽤されたと考えるとちょうどよいです。すなわち、アマゾンロボティクスの技術の起源の⼀端はロボカップサッカーにあると⾔われています。
- 今年の夏にロボカップは名古屋に凱旋しますが、観戦予定の読者にメッセージを頂けますか?
ロボカップ観戦はどんな⼈にもお勧めですので、ぜひ多くの⽅に観に来て頂きたいです。ちなみに観戦は2 ⽇⽬がお勧めです。決勝戦はレベルが⾼くてもちろん⾯⽩いのですが、2 ⽇⽬あたりは決勝戦に勝ち上がるための死闘が繰り広げられる様⼦は⾒ていてすごくワクワクします。意外なアイディア、新しい発想なども登場するのは案外2 ⽇⽬だったり、試合数がものすごく多かったりするので、いろいろなリーグを⾒て歩けます。そのため、ロボカップを良く知っている観戦者は2 ⽇⽬に来ます。(あくまで個⼈の感想です。)それから、既にロボットに興味がある⼈は⽬の前の競技で使われている技術が、将来どんな分野で活かされるかを想像しながら⾒てみると、もっと楽しいと思います。ビジネス分野の⽅は、試合してないときにチームの⼈に気軽に話しかけてみてください。シミュレーションリーグは凄腕ハッカーの集まりですし、諸外国の情報も聞けたりします。そして、実機リーグはやはりなんといっても⼩型リーグがお勧めですので、ぜひ⾒に来てください!
著者・撮影:ロボスタ 神崎洋治(http://robotstart.info/)
[ 中川友紀⼦⽒ プロフィール ]
法政⼤学⼤学院⼯学研究科システム⼯学専攻修了。東京⼯業⼤学⼤学院総合理⼯学研究科助⼿。科学技術振興機構ERATO(戦略的創造研究推進事業)北野共⽣システムプロジェクト研究員。⽇本科学未来館 展⽰企画グループサブリーダー。ロボット関連企業を経て株式会社アールティ設⽴。ロボットショップ&メーカーとして現在に⾄る。2015 年、Robohub(海外のロボット情報コミュニティ)による「ロボティクスで知っておくべき世界の25 ⼈の⼥性2015 年度版」に選出される。⽇経Robotics とロボコンマガジンに連載執筆中
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