RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)
RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)
大規模な国際大会に成長して帰ってくるロボカップ大会
教育や産業において素晴らしい循環サイクルをもたらしている
西暦2050年までに、FIFA World Cup のチャンピオンチームに自律型ヒューマノイド・ロボットのチームで勝利する」ことを目標としたロボットの世界大会「RoboCup」(以下、ロボカップと表記)。次回の大会は2017年7月25日~31日(競技は27日~30日)に名古屋で開催されます。
「人工知能やロボットの研究を加速させるためには、大きな目標と世界的なプロジェクトが必要」と考えてロボカップを発起した、ソニーコンピュータサイエンス研究所の社長で工学博士の北野宏明氏に、ロボカップについて聞きました。
■2017年、大規模な国際大会となって名古屋に帰ってくる
- 今年で21回目となるロボカップは名古屋で開催されますが、第1回と比べてどのように変わったでしょうか。
第1回は1997年、今回と同じく名古屋で開催しました。当時は規模も小さく、名古屋の国際会議場白鳥ホール(1,250平米)という会場で、しかもその1/3くらいのスペースだけではじめました。何もかもが試行錯誤でした。
それに比べると2016年は世界最大規模の国際見本市であるライプツィヒ・メッセの会場、ほぼすべてを使って開催されるほど、巨大な国際イベントに成長したと実感しています。2017年のロボカップは再び名古屋に戻ってきて、「ポートメッセなごや」という大きな会場を選択したにもかかわらず、来場者の規模を考えると事務局からは「もっと大きくした方がいいんじゃないか」という声も出ているほどです。
- これほど大規模なイベントに成長した理由はどこにあるのでしょうか
一番の理由はロボカップには挑戦(チャレンジ)するサイクルがあって、それが魅力的な循環をしていることだと考えています。
ひとつは「ロボカップジュニア」によって子供たちを育成しようという試みです。ロボカップジュニアは子ども達の好奇心や探求心を引き出し、サイエンスで挑戦する舞台として3種類の競技テーマを用意しています(サッカー、レスキュー、オンステージ)。日本では国際科学技術コンテストに認定され、誰でも参加できる大会として知られています。ロボカップジュニアに出場した子供たちがロボットや人工知能を開発する技術やチームワークを学び、やがて大人になって最先端技術の研究者や開発者となり、再びロボカップに戻ってきて切磋琢磨する、そんな良いサイクルができています。
- 最先端技術の開発者の育成に繋がっているんですね
活躍はエンジニアに限らず、ロボカップの参加を経てサイエンティストになって、今では国際会議などに出席して活躍している人もいます。ロボカップは世界中から注目され、数十万人が関わる国際的なイベントとなったので、その影響力は年々大きいものになっています。
また、子供の育成に限らず、企業や社会とのサイクルもあります。
- 具体例はありますか?
ロボカップの「小型ロボットリーグ(small size league)」に参加していたある人が、ロボットによる自動化によって倉庫内の物流管理の効率化を行う会社を作りました。それがKiva Systems(キバシステムズ)です。米アマゾン・ドット・コムが2012年に同社を7億7500万ドルで買収していまの「Amazon Robotics(アマゾンロボティクス)」となりました。ロボカップと同時期に同じ会場でアマゾンが主催するロボット競技大会「アマゾン・ロボティクス・チャレンジ」が開催されますが、それは我々にとっては「ウェルカムバック・ホーム」(おかえり)という気持ちで迎えています。
ロボカップで培ったロボットやAI関連技術がアマゾンロボティクスという会社として結実し、ロボカップの会場で新しい技術を競うチャレンジの舞台を提供する、これもサイクルのひとつだと思っています。
- ロボカップ競技で培った技術が産業面でも活かされているかもしれませんね
以前は「4足ロボットリーグ」というカテゴリーがあって、ソニーの「AIBO(アイボ)」が標準ロボットとして使用されていました。ソニーがアイボの開発・販売をやめたちょうどその頃、フランスのチームでロボカップに参加していた人が、起業家とともにロボットの会社を作りました。その会社が「アルデバランロボティクス」です。アイボに変わってヒューマノイド型ロボットのNao(ナオ)が「RoboCup 2008」からの標準ロボットとして採用されるようになりました。2014年にソフトバンクがそのアルデバランを実質買収していたことが公表されましたが、ロボカップの@ホームリーグというカテゴリーで今年はPepperが標準ロボットして採用されることになったので、これもある意味「ウェルカムバック・ホーム」という気持ちと、良いサイクルの事例かなと感じた出来事です。このように多くの人たちがロボカップというチャレンジに新しく加わることでサイクルの規模も範囲も大きくなり、その結果、教育や産業との繋がりが強化されることを期待しています。実際、20年以上もやっているとその循環と影響力は世界的なものになり、大きく成長していることを実感しています。
- ロボカップをはじめるときから人や技術の循環サイクルやその拡大は意図していたのですか
意図していました。ロボカップは「人工知能やロボットの研究を加速させるための大会」であり、それにはコンペティションが不可欠であり、効果的だと考えています。ロボカップを通じて新技術が生まれ、研究者が育ち、社会に役立つロボットや技術を牽引する会社が生まれる…このプロセスが起きるようにデザインしようということをロボカップでは意識していました。今後はそれをもっと加速したいと考えています。
- コンセプトに「サッカー」を用いたのは世間一般的なわかりやすさを狙ったものですか
サッカーは世界的に盛んなスポーツで認知度も高いために解りやすいという利点もありましたが、必要な要素技術を分析した上で「サッカー」という課題を選びました。「20年後や30年後にロボットとAIは社会のどんな分野で必要とされるのか」と考えたとき、自動運転、自律会話、災害救助などたくさんのテーマがあるなかで、それらに必要な技術や機能をすべて集約しつつ、一般の人にも解りやすいものって何だろうかと考えた結果、「ロボットがサッカーで人間のチャンピオンチームに勝つ」というテーマにたどり着きました。
- ロボット技術の進歩という点では、当初思い描いていたイメージの通りでしたか
思い描いていた通りだった部分とそうでない部分があります。ロボカップをはじめた頃のロボットは、そもそもほとんど動きませんでした。「ロボットで人間のサッカーチームに勝つ」なんて言っちゃったから、大きなテレビ局をはじめとして国内外からたくさんのメディアが取材にやってきました。しかし、サッカーどころか、実際にはロボットがきちんと動いてもいませんでした。番組撮影スタッフから「いつから試合が始まるんですか?」と聞かれて「試合は5分前から始まっているんですけど・・」なんて笑い話がある(笑)、それほどにロボットは動かなかった。
「継続は力なり」ということわざがありますが、それでも二年目は少し動くようになり、三年目はもっと動くようになる、と進化を重ねていきました。
当時はライトの光によってカメラやセンサーが誤動作することも多かったのですが、昨年のライプツィヒ大会では屋外の太陽光の下でもロボットは正常に動けるまでに進歩していました。
- 思い描いていた通りではない部分はどんなところですか
ヒューマノイド系のロボットの進歩は思った以上に遅いと感じています。当然のことですが、実際に人間のサッカーチームと対戦するにはある程度の能力を持っていないと相手にしてもらえません。例えば、二足歩行構造のロボットの場合、歩くことはできるようになったものの、自由に走り回ったり、ジャンプしたりすることはまだできません。それができないと残念ながら人間とロボットでサッカーの試合はできません。
また、選手にとってロボットは安全な相手でなければいけません。ロボットの身体の素材は鉄やアルミ、樹脂、プラスチックなど硬いものが多いので、もっと柔らかい素材で覆われていることが求められます。機構や外装などロボットのハードウェアはもっと大きく進歩しなければならないでしょう。ハードウェアについてこの20年間、徐々に進化してきましたが、新しいアイディアや新しい発明など、どこかで革新的でドラスティックな変化がないとこの目標を達成することは難しいでしょう。革新がいつどのようにやってくるかを予想することはできませんが期待はしています。
- 人間とロボットがサッカーで熱戦を繰り広げるのは、まだまだゴールが見えない遠い道のりなんでしょうか?
例えば、技術的にはボストンダイナミクスの「Atlas (アトラス)」のような運動能力を持ったヒューマノイド・ロボットが実現しています。もちろん今はあのレベルのロボットは研究段階で、誰でも買えて誰でも操作できるというものではありません。しかし、あのレベルのロボットは技術的には実現できているのですから、仮に誰でも廉価に利用できるようになるとすれば、人間とロボットがサッカーをするのも遠すぎる夢ではないと感じます。ただし、人間と同等にサッカーをするにはまだまだ運動能力やインテリジェンスが進歩しなければならないですよね。
■ ロボカップのみどころは
- 社会的にロボットへの期待や注目が急速に高まるなか「はじめてロボカップを見る」という方も多いと思います。初めて見る人に向けてロボカップのみどころを教えてください
サッカーリーグでは、スピードが早い小型ロボットリーグ(small size league)と、迫力のある中型ロボットリーグ(middle size league)に注目すると良いのではないでしょうか。特に中型ロボットリーグはロボットがある程度大きく、観戦スタンドも用意されて見やすいこともあって、準決勝や決勝は毎回ものすごく盛り上がります。その盛り上がりと熱戦を是非楽しんで欲しいと思います。
- 観客が盛り上がったということでは、今まででなにか印象的なエピソードはありますか?
例えば、あるヨーロッパの大会でイタリアはナショナルチームを結成してのぞんだことがありました。出場する7つの自国チームを合わせ、更にイタリアサッカー協会のアドバイスや協力を仰いだ本気の体制で参加してきたのです。イタリアサッカー協会のナショナルトレーニングセンター制度を使ってロボットを開発したのですから惨敗するわけにはいきません。その大会のドイツ対イタリアの一戦などはバスをチャーターしてたくさんの人たちが会場に訪れたので、現地で「どうしてこんなに注目が集まっているのか」と聞くと「だってサッカーの試合だろう?ロボットとは言え、サッカーであっちに負けるわけにはいかないだろう」という言葉が返ってきたりするんですね。サッカーはやはり熱いです。ロボット自体に注目するのももちろん面白いのですが、現場で一生懸命にロボットを改良や修理をしていたり、思うように動かなくて頭を抱えて七転八倒していたり、何度も失敗しながら頑張っている姿とか、そんな出場者たちにも注目すると面白いかもしれません。そんな見方もロボカップの魅力のひとつだと思っています。
- 観戦は家族連れでも楽しめますか?
そうそうロボカップジュニアも楽しいですよ。ロボカップジュニアは最初、教育プロジェクトではじめて、教育効果がどれくらいあるかを効果測定しました。その結果、ロボットに興味を持って、関連するサイエンス(科学)の成績が上がるという効果を期待していましたが、それ以外の教科の成績も総合的にあがるという結果が出て驚きました。競技にチャレンジするには、いつまでに何をどこまで開発しなければならないという「計画性」が必要です。何から行うべきかのプライオリティ付けも必要です。また、ひとりではロボットの開発はできないので、仲間とコミュニケーションをとりながらものごとを進める「協調性」も大切です。これらを学ぶことで日常生活に良い影響をもたらし、サイエンス以外の教科も含めて全般時に学習能力が向上するという嬉しい統計が出ました。
- 個人的にお勧めのロボカップジュニアの種目を教えてください
ロボカップジュニアをはじめて見るなら「オンステージ」(ダンス・チャレンジ)がお勧めです。ロボット技術と衣装、振り付けを融合し、音楽に合わせて自由なテーマでパフォーマンスするダンス競技です。ダンスのストーリーを考え、振り付けを考え、曲を選んで、ロボットが踊る、たまに参加者たちも一緒に踊る、いろいろな人が参加できる種目です。女子の参加者も多く、リーダーをつとめるチームもあります。ミュージック、アートパフォーマンスがあって、その中にテクノロジーが入るという感じです。
- ロボカップサッカーで培われた技術を日常生活に応用し、キッチンやリビングルームではロボットがいかに人間とともに協働できるか、その技術を競技形式で評価する@ホームも興味深いですね
ロボカップ@ホームはロボットが家庭に入る未来を見据えて、参加者からの提案で2008年くらいから検討をはじめ、新設された経緯があります。今年から@ホームの標準プラットフォームに、トヨタの「HSR」とソフトバンクロボティクスの「Pepper」が採択されたので、そこも見どころになるんじゃないかと思っています。ロボカップレスキューはロボカップをはじめた当初から構想はありました。ただ、レスキューは法律や制度が国ごとに異なる関係で、世界大会では統一したルール作りが簡単ではありませんでした。そのため、ロボカップ初年度はサッカーをテーマにスタートしましたが、レスキューも比較的早期に実現させたかったので、翌年にはワーキンググループを作ってロボカップレスキューのリーグ構想に着手しました。
- ロボカップレスキューの実績を買われて、実際の災害現場で実用化された技術やケースもありますか
あります。2001年のロボカップでロボカップレスキューが行われてから数か月後にニューヨークで同時多発テロ事件がありました。そのときにロボカップのロボカップレスキューに出場していたロボットの技術が現場に投入され、三週間ずっとオペレーションに当たりました。また、2009年の大会でチャンピオンに輝いた千葉工大のチームのロボットは特に走破性能で評価され、放射線対応にしたものが福島県の災害現場に投入されました。ただ、やはり災害現場の環境は想定以上に厳しく、ケースバイケースなので、ロボカップ用に開発したものがそのまま活躍できるかと言うとそうではなく、現場で様々な対応をしながら順応させていくことが重要です。
著者・撮影:ロボスタ 神崎洋治(http://robotstart.info/)
[ 北野 宏明氏 プロフィール ]
ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長。
特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 会長。
沖縄科学技術大学院大学 教授。
ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。
ソニー株式会社 執行役員コーポレートエグゼクティブ。
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ロボカップ2017名古屋大会事務局
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