RoboCup2017 Nagoya Japan

RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)

RoboCup2017 Nagoya Japan(ロボカップ2017)

RoboCup2017 Nagoya Japan
RoboCup2017 > インタビュー

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #01はこちらから

ソニーコンピュータサイエンス研究所
代表取締役社長
北野 宏明氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #02はこちらから

ブルームフィールド大学
教授
江口愛美(Amy Eguchi)氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #03はこちらから

株式会社アールティ
代表取締役
中川友紀⼦⽒

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #04はこちらから

千葉工業大学(CIT) 学生 
CIT Brainsチームリーダー
関 遥太氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #05はこちらから

愛知県立大学大学院
Camellia Dragons
日髙 憲太氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #06はこちらから

愛知工業大学 大学院 博士後期課程
AIT Pickers (DERA Pickers)
渡邊 彩夏氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #07はこちらから

玉川大学
チーム「eR@sers」
長瀬夕佳氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #08はこちらから

たかはま夢・未来塾 ロボットクラブ所属 Team Takahama Robots
宮本圭佑さん(中学二年生)、近藤諒歩さん(中学一年生)

ロボカップ 2017名古屋世界大会
インタビュー #09はこちらから

アメリカ国立標準技術研究所
(NIST)
Adam Jacoff氏

ロボカップ 2017名古屋世界大会 インタビュー #10

フラワー・ロボティクス 株式会社 代表取締役社長
松井龍哉氏

新産業の創出を目指すロボカップだからこそ「ロボット・デザインの資質」が求められる
RoboCup Design Award が示すメッセージ

「私がロボットのデザインを手がけるようになったのは、1999年にロボカップに出場したことがきっかけなんです」松井氏はそう切り出しました。現在のロボット業界を牽引している第一人者たちの多くが、ロボカップの影響を受け、その精神から学び、そして未来のロボカップを支えていると感じます。ロボットデザイナーとして世界的に知られる松井龍哉氏もそのひとりです。
松井氏が代表取締役をつとめるフラワー・ロボティクスは2015年から「RoboCup Global Partner」としてロボカップの支援をはじめました。それと同時に、ロボットのデザイン性を評価する「RoboCup Design Award」(ロボカップ・デザイン・アワード)を設立しました。その理由はどのようなものでしょうか。 ロボカップ公式インタビューの最終回は松井龍哉氏に聞きます。

- ということは、松井さんはロボカップ出場をきっかけにロボットやロボット業界に興味を持ったのですか?

はい。もしもあのときロボカップに出場していなければ、今頃はまったく違う業界でデザインの仕事をしていたかもしれません。1998年にロボカップ世界大会がパリで開催されることになり、当時パリに住んでいたこともあってインバクトが大きかったです。その翌年、私は北野共生システムプロジェクトに参加します(※1)。そして同年、サッカーの小型サイズリーグ「J-Star」チームの一員として参加することになりました。そのときに私がはじめてデザインしたロボットがこれです。

左はJ-Starチームがロボカップに出場した時の小型リーグ用ロボット、右は北野共生システムプロジェクトで生まれたロボット「Pino」。
宇多田ヒカル氏の「Can You Keep A Secret?」のプロモーションビデオにも登場し、2000年度グッドデザイン賞を受賞した。
どちらも松井氏がデザインを手がけている

※1.北野共生システムプロジェクト 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏が総括責任者をつとめる研究プロジェクト。
(北野宏明氏はロボカップ発起人のひとり。詳しくは公式インタビューの第一回の記事を参照
※2.J-Starチーム 1998年、1999年のロボカップジャパンオープンで優勝、1998年のロボカップ・パリ世界大会はベスト8、などの実績を上げています

いろいろなことを気づかせてくれたロボカップへの恩返し

- フラワー・ロボティクスとして「RoboCup Global Partner」に就任した理由や経緯をおしえてください

ロボカップにはいくつかの理念がありますが、その中のひとつに「新産業の創出」があります。 ロボットやその技術が研究から産業へと移行する過程には、イノベーション、開発、製造、訴求といったプロセスがあります。また、ロボットが社会に出たら、実際に使ってもらうことが重要で、それらがすべて揃ってはじめて事業として成立します。実際の社会の中で使ってもらえることで、ロボットにおけるサイエンスは人類への貢献に繋がるという考えですね。 ロボカップを卒業したたくさんの人たちは、イノベーションの足跡を残すだけでなく、大会で学んだ技術やマネジメントなど、実際の社会や産業に多くのことを活かし、ロボカップにフィードバックしていると常々感じていました。そのやり方は人によってさまざまですが、私はフラワー・ロボティクスという事業を立ち上げ、ロボカップで学んだことをその事業に活かしてきたわけですから、ロボカップの卒業生として「Global Partner」というカタチで、次の世代のロボカップを支援していきたいと考えたのです。

- なるほど。同時に「RoboCup Design Award」を創設しましたが、これはどのようなものですか?

RoboCup Design Awardは、サッカーや@ホーム、レスキューなど、リーグとして競う競技ではありません。ロボカップに参加しているチームの中から、審査員が特にデザイン性に優れていると評価したロボットに与えられる賞です。すべての出場チームが参加する権利を有し、申請によって評価の対象となります。昨年は、レスキューリーグに参加したチームが受賞しました。

ロボットに求められるデザインとは

- どのような基準で評価されるのでしょうか

ここで「デザイン」と呼んでいるものはキャラクターデザインの類ではなく、カッコいいとか悪いということでもないんです。サッカーであってもレスキューでも@ホームでも、ロボットが産業に入っていくことを前提に考えると、機能性やメンテナンス性、再現性、移動や持ち運びのしやすさなど、あらゆる面で「テザイン」は関わってきます。

- 合理的なデザインということですか?

例えば、ロボカップでは、とても強い技術さえあればそのロボットやチームが勝ち進んで、優秀な成績を収められるというものではありません。国際大会ともなると開催される国も様々で、会場や環境がそれぞれ大きく異なります。また、移動も多く、何度もロボットをバラしたり組み上げたりすることもあります。それを「再現性」と呼んでいますが、組み上げたときいつでも安定した性能を発揮することが求められます。また、競技後に故障箇所を素早くチェックしたり、壊れたパーツがあれば短時間で修理や交換するなど、高い「メンテナンス性」も重要です。これらはすべて実はロボットのデザインのひとつなんです。

フラワー・ロボティクス社ではデザイナー(松井氏:左)とエンジニアが最初から一緒に開発を行うことで整合性のあるデザインを作っている。
この20年間でデザイン用ソフトウエアも進化し、それも大きく関係している。(写真提供:フラワー・ロボティクス)

- 「RoboCup Design Award」はそれらの点を評価するのですね

それだけではありません。1台の優秀なロボットを作ることが研究分野では重要ですが、産業分野への転化を考えると、数千台、更には数万台を量産したり、市場に出した後もそのロボットが優秀か、使ってもらえているかが問われます。デザインとはそもそもそこに気を使えるかどうか、から始まります。それはインダストリアル・デザインを含めて本当の意味での「デザインの資質」だと考えています。
競技に勝つことだけではなく、ロボットを使う人を意識してデザイン設計することが大切だということを、「RoboCup Design Award」を通してひとりでも多くの参加者に気付いてもらえたら、このアワードを設けた意味があるんじゃないかなと考えます。もちろん、その中でキラリと光るものがあれば、それをきちんと評価したいと思っています。
昨年は、ロボカップジュニアの出場チームにも素晴らしいデザインのものが見られたので、今後はジュニアとそれ以外に分けて表彰することも検討しています。

環境とデザイン

- 松井さん自身、J-Starでロボカップに出場していた頃は、どのようにデザイン設計したり、検討していたのでしょうか?

デザイナーに限らず、チームのすべてのメンバーがきちんとコミュニケーションをとることが重要です。例えば、「プロダクトデザインとしてカメラの位置はここが良いと思うんだけどどうだろうか?」と聞くと、ビジョンの技術担当からは「いや、これでは角度が悪くて視界が十分にとれない」とか「外装やプロテクターが邪魔をして正常に動かない」と言った意見がでます。そんなやりとりを繰り返しながら、デザインが決まっていきます。これでOKと決まってからもそれで終わりではありません。会場が変わると、光が自分のボディに反射してビジョンが影響を受けるというような問題が生じたりして、対策として反射しにくい色や材料の塗装に変更したり、ボディのカーブ形状を修正したりと、様々な環境下でテストしてみなければ、本当に良いものにはならないんです。試行錯誤の連続ですよね(笑)。

CES2016出展時のフラワー・ロボティクス社の展示ブースにて。スタッフ全員が同じユニフォームを着て会場に入る。WEB やチラシを含めて全てのデザインに統一感を持たせ、企業が社会へ発信するイメージの伝達をしやすくする。松井氏はロボカップで学んだことを今も社会で実践している。(写真提供:フラワー・ロボティクス)

ロボカップのときは、ロボットのデザインだけでなく、ビジュアルコミュニケーションデザインも担当しました。J-Starのロゴマークやチームメンバーやスタッフが着用するユニフォーム、チームのホームページなど、デザイン関連の制作はすべて担当しました。異なる作業を担当しているメンバーたちが、ロゴの入った同じユニフォームをまとうことは実はとても重要なんです。企業で言うところの「コーポレート・アイデンティティ」ですが、これをしっかりやることで、不思議とチームが一丸となって、同じビジョンを目指し、気持ちがひとつになっていくんです。デザインにはそんなパワーもあるんです。

[ プロフィール ]

松井 龍哉(まつい たつや)
フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役社長/ロボットデザイナー

1969年東京生まれ。91年日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。
2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。2017年よりヨーロッパ各地の美術館/博物館にて開催される巡回展”Hello, Robot”展に出展中。
ニューヨーク近代美術館、ベネチアビエンナーレ、ルーヴル美術館パリ装飾美術館等でロボットの展示も実施。
iFデザイン賞(ドイツ)red dotデザイン賞(ドイツ)など受賞多数、日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007年から2014年)。

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